「いえ、それは多分あなたの心が――」 

そこまで言った後、ファルさんは言い淀む。
「俺の心が綺麗だからだと?」
続く言葉を、ファルさんは俺の目を見て、はっきりと伝えた。

「いいえ、逆です。」
「あなたの心が、美しくはないから」
「……え?」

「でもあなたが悩み、葛藤して……自分の弱さを隠すために、いえ、それを実現する
ためにこそ言葉を作るから……」
「だから、あなたの書く言葉は、美しいんだと思います」

 そう言い切った後、彼女は不安そうに俺の顔を覗き込む。

「ごめんなさい……急にこんなこと言ってしまって……」
「いや、それは多分本当のことですから、気にしませんよ」
「……アーシノさん」

 ファルさんに言った言葉は、半分は本当で、半分は嘘だった。
彼女を安心させるために、気にしていないといったが、彼女が心配するような、不快な
気分にさせられたわけでは断じてなかった。妙に納得してしまっただけだった。
そして、やはり気にかけずにはいられなかった。
それは、俺が悩んでいることの、本質に近い指摘だったから。

「さあ、そろそろ出ましょう。ファルさんの料理が待ち遠しくて仕方ありませんから」

 突然の展開に驚いたような顔をしていたリセルシアも、その言葉に立ちあがる。

「……そうね。リセ、今日はすこし凝った料理にするから、手伝ってね」
「はい、私、何でもやります」
 
 驚きながらも、勢いよくリセルシアは答えた。
 俺とファルさんは、そんな彼女を見て少し笑った。
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